この記事は、ペンシルパズルI Advent Calendar 2022 - Adventarの 17 日目の記事である。
この記事では、ペンパの(紙面上での)解き方について、考える。
へやわけの書込
まずはいくつかの具体例を見せて、この記事の意図を伝えたい。
図1は、へやわけを解いている途中の紙面の様子(例)である。いくつかのマスに、シャカシャカと鉛筆をこすりつけたような跡がある。このような書き込みを、「書込」と呼ぶ。
へやわけを丁寧に解く人は、図2のように、マスをしっかりと塗りつぶしていく*1。マスからはみ出ないように綺麗に塗っていくことで、満足感の高い盤面を完成させることができる。
綺麗に書込をするには、かなりの時間と、ペン先の繊細な制御能力と、精神の集中を要する。したがって、図3のように、汚く書き込むことも多いだろう(「汚く」という表現は印象が悪いが、必ずしも悪い面だけでもない)。
図4では、3色のペンを使ってストライプを書き込んでいる。
へやわけのような、マスを塗りつぶす種類のペンパでは、線幅の太い筆記用具の方が書き込みやすい。しかし、(私にとって)これだ、という筆記具がなかなか見つからないため、仕方なく細い筆記用具を使っていることが多い。そのような場合に、こういった斜線による書込は、時間効率の割に仕上がりが気持ち良い(と思う)ため、有効な選択肢である。色は、解いている際の気分で変えている。単色で塗るよりも、なんとなく仕上がりが楽しくなる。
図5のように「五芒星」を使う選択肢もある。五芒星は、一筆書きで描ける(時間効率が良い)記号でありながら、マスを効率よく埋め尽くすことができるため、塗った塗らないの間違いが起こりにくい。星どうしが斜めに接している時に、線でつないでみると、盤面が分断されるかどうかの判断がしやすくなる。
マスを濃い黒色で塗りつぶすと、へやわけでは表出数字が見えなくなってしまう問題がある。そもそも印刷がされている箇所に重ねて書込をすること自体が、気持ちよくない、と個人的に感じる。そこで、数字を丸で囲む、という方法がある*2。図6は、そこからさらに一歩進んで、マスのコーナーを「丸める」方法を取っている。
角の丸めはテクニカルに思われるかもしれないが、実際には、大雑把にコーナー部分に斜線を引くだけでも、十分に円らしく見える。それどころか、(私の場合は)普通に円を描こうとするよりも、角の丸めだけの方が綺麗に仕上がりやすい。「あえて全体を書かない」というのが効果的なのかもしれない。おそらく、部分的に線を引くことによって、人間の脳が補間してくれるのだろう。
角の丸めに加えて、斜めの接続を導入したものである。一つ一つの線は決して綺麗ではないが、全体としてまとまりがある印象になる。一気に全体を完成させるのではなく、このように段階的に情報を足していくと、綺麗に仕上がることが多いようだ。もっと完成度を上げたい場合は、ここからさらに一つ一つの線をなぞったり修正をかけたりと、調整していくのもいいだろう。
図8は、白マスの領域を囲む境界線を描いている(解いている途中の様子である)。黒マスを描かない、というのは、普通の解きの感覚とはかなり異なっており、普段使用しない頭の領域を使う印象である。
図9では、白マスの領域を囲む境界線に加えて、黒マスを表す四角を書き込んでいる。二種類の書込を区別しやすいように、二色(赤+青など)を使っても良いだろう。
へやわけは、白マスの領域に書込をしないと解き終わったかどうかが分かりづらいという問題と、白マスに点を打つのが美しくない(と思う)という問題の板挟みがある(と思う)。境界線を描くアプローチは、この板挟みの問題を幾分か解消していると言えるだろう。
図10では、黒マスを立方体にしている。このように立体的にするとだいぶ印象が異なってくるところが面白い。それぞれの立方体が平地に建つ「家」だと思うと、へやわけの問題を作っている「へやわけ」は、家と家の間を走る電線のように見える*3。
少しだけ一般論
「書込」とは
「書込(かきこみ)」という用語は、「表出(ひょうしゅつ)」の対になる用語である。ざっくりと定義を書いておく。
- 「表出」とは、ペンパの盤面に(出題時点で)描かれている記号類、または、それらを盤面に与える行為である。
- 「書込」とは、ペンパの盤面に(解いている過程で)描きこまれる記号類、または、それらを盤面に与える行為である。
詳しくはペンシルパズル百科(https://scrapbox.io/puzzle-pedia/)の記述(https://scrapbox.io/puzzle-pedia/%E6%9B%B8%E8%BE%BC)を参照してほしい。 「書込」という用語は、比較的新しい用語らしい。私自身は、わんど氏に教えてもらってから以降この言葉を使っている。「筆記」という言葉も(ほぼ?)同じ意味で使われるようだ。
書込のバリアントとは
ペンパ雑誌の「例題」や「答え」の画像に載っている姿を正確に模倣して書き込む方法があるが、他にも、実に様々な書込の方法が考えられる。
こういった、「様々な書込のスタイル」(もしくはその方法論、心構えなど)を、「書込のバリアント」と呼ぶことにする。
書込のバリアントを考える理由
書込のバリアントを考える動機には、様々なものがあるだろう。いくつか挙げる。
- 解きやすさを向上したい(時間効率改善、体力効率改善)。
- 解き終わったことがわかりやすいようにしたい(終局明確化)。
- 解き終わりの「美しさ」を向上したい(芸術性向上)。
- 新しい発見を期待している(冒険心、研究心)。
- なんとなく、変えたい(気分、飽き性)。
一方で、デメリットもあるだろう。
- 出題者の意図や趣向が分かりづらくなりやすい(作意破壊リスク)。
美術館の書込
図11は、美術館の「普通」の書込である。
図12のように、線がない列にも線を描いて格子を均一にすると、解き終わりの見た目のまとまりが良くなる(終局明確化)。
図13のように、照明を部分的にのみ描く方法もある。ここでは、加えて、線の交差を気まぐれで前面/背面にして、心持ち立体感を出している。黒マスにも側面をつけて、立体感を強調するのも良いだろう。
照明を丸で表す代わりに、図14のように、尖った形を用いても良いだろう(画像の作成に飽きてきたため、いくつか奇妙な遊びを加えている)。
黒色で書き込む代わりに、白色で書き込んでもいいはずである。美術館は光を配置するペンパなので、白色で書き込むことに納得感がある。修正液で書き込むことに何度か挑戦してみたが、まだ満足できる結果は得られていない(図15は、その失敗をペイントツールを用いて再現しているものである)。揮発性なので、長時間使うと体調を崩すことがある点も難点である。
直線が思うようにきれいに描けなくて神経質になってしまう場合には、思い切って汚い方に振り切ってしまう方法もある(図16)。
図17のように、細かい振動(ビブラート)を使うことで、直線の歪み感を抑えることができる。
図18は、照明から出る線を太めの二重線(+丸め)にして、線どうしの重なりは前面/後面に分かれるようにしている。
スリザーリンクの書込
図19は普通の書込。
図20は、少しだけ丸めを加えてみたもの。こちらの方がループの全体的な形が見えやすい。
図21は、線を二重線にする試みの中で見つけた、書込のバリアント。線が曲がるとき、外側の線は気持ち遠回りするように線を描いている。なんとなく、気持ち良い見た目である。手軽な割に、書込の誤差が目立ちにくい。
図22では、一部の線だけを描いている。ループのどの部分の書込を省略するかは好みが分かれるところだろう。下書きと清書の二段階に分けて書込をしている。断片化は、うまくやると、あとで何度でも目解きする楽しみを残すことができる。
図23は、もっと緩く書き込んだもの。
スリリンは格子点が特徴的であるため、解き方にもそれを反映してみたものが図24。解いている際にしばしば自分が何をしているのか見失うが、解き終わった盤面を遠目で眺めると、ループがうっすらと見える。なんとなく趣がある。
図25は、意図的に見えにくくした書込の例。
ヤジリンの書込
黒マスを塗るのは、ループを書くのと比べて面倒に感じることが多い。図27のように、黒マスを書かないで解くことが考えられる。
逆に、図28のように黒マスの箇所だけ描いても良いだろう。
ループの線を破線にするやり方もある。破線の周期をマスのサイズと合わせた、図28のような書込も考えられる。縫って解くというのもありだろう。
図30は、一風変わった書込の一例。普段気づきにくい構造が見える点が面白い。
これも少し変わった見方でループを表現している。
砂利道を見ていると、パターンが見えてくることがある。
図33は、書込をする場所が"少しだけ"ずれている例。本当は美術館の盤面に書き込むはずだったが、手が滑って書込位置がずれてしまった。こういうずらしを「間接書込」と呼んでいる。間接書込を人間と世界のモデルで捉えるとinputのずれとoutputのずれがあり、大胆に言ってしまうと、これらはパズルそのものである。循環的な書込も、意外と無理なくできるが、表出の上に書き込む場面が多い点が残念である。
少しだけ一般論、再び
画像を作るのに疲れたので、具体例を挙げるのはこれくらいにしておく。
表出と書込の統一的観点
にしなんとか氏は、表出を「復元型」と「情報型」に分類する考え方ができることを指摘した。
→https://scrapbox.io/puzzle-pedia/%E5%BE%A9%E5%85%83%E5%9E%8B
書込についても同じ分類ができる。復元型/情報型というのは、表出と書込の「関係」に注目した分類である。その関係は、記号の書き込まれる空間の分離と、選択肢の分離の関係に分けることができそうだ。例えば迷路は表出と書込が双対格子の上にのるが、これは空間が異なるが選択肢が等しい、と解釈できる。一つのペンパでも様々な解釈があることには注意する。
ペンパ(解釈) | 空間の関係 | 選択肢の関係 |
---|---|---|
フィルオミノ(数字埋め) | 等しい | 等しい |
スリリン(内外塗り) | 等しい | 異なる |
迷路(グラフ作成) | 異なる | 等しい |
スリリン(ループ作成) | 異なる | 異なる |
復元型と情報型の印象は大きく異なっている。相転移的ではなく、クロスオーバー的に中間的な概念も含むようなモデルを考えたい。そこで2つの解釈:「仕切り」としての解釈と「反発」としての解釈、が考えられる。「仕切り」は、表出空間と書込空間の間が壁で仕切られている、という考え方で、復元型の場合は解いている間に仕切りが少しずつ移動・変形していく解釈である。「反発」モデルは、記号同士に斥力のようなもの*4が働くことによって、それらが「結果的に」同じ空間を占有しない。
書込を記号の種類や記号が集まった構造物の種類で分類する方向として、「プレース系」「フィル系」「ループ系」「リンク系」「黒マス系」などがある。逆に全てのペンパを統一的に見よう、という方向で言うと、プレース系として捉えるのが比較的わかりやすいと考えている。ループを描くペンパでも、最小の要素(プレースの素)が構造物を作っているだけだと考えるとわかりやすい。プログラム的な観点では、位置ごとに選択肢(変数)を与えるような見方もあるだろう。
解き手から見た書込の分類方法の考察
復元型・情報型、という分類は、いわばペンパの作り手や、ペンパのルールを考える人、つまり上流工程から見た分類である。解き手から見た分類を考える。ここではペンパのルールや種類は固定したものと考えて、その中での分類を考える。
書込のバリアントの分類に関して、ざっくり次のような分類が考えられる。
- 終点のスタイルを変えるバリアント
- 終点の気持ちを変えるバリアント
- 変化の種類を変えるバリアント
- 変化の方法を変えるバリアント
- 変化の気持ちを変えるバリアント
- 高次?なバリアント
解いている特定の時点の特徴で分類することが多く、その時の見方は物質的な場合と、精神的な場合があるようだ。
「終点のスタイルを変えるバリアント」では、「綺麗な書込」vs「汚い書込」vs「奇妙な書込」という分類が見つかる。スタイルとして、線のスタイル(角の丸め、破線、点線、まつりぬい、二重線、太線など)や、色のスタイル(黒白、カラフルなど)や、その他全体的なスタイルなど、たくさんの分類が思いつき、それぞれで新しい書込のバリアントが生えてくる。もっと構造的なスタイルとして、唐草模様にしてみたり、立体化してみたり、錯視風にしてみたり、複数人風にしてみたり、というのも考えられる。
「終点の気持ちを変えるバリアント」は、「解き終わったときに気持ちいい書込」を追求したり、逆に気持ち悪くなるようにしてみたり、そもそも最後まで解かなかったり、一部のみに書込をしたり(断片化)することができる。
「変化の種類を変えるバリアント」は、まず「黒化」vs「白化」の分類が考えられる(ボールペンで描く、修正液で描く、消しゴム、など)。終点のスタイルや終点の気持ちにも関係するが「美化」vs「醜化」の分類もある。
「変化の方法を変えるバリアント」は、先ほどの話とこれまた近いが、筆記用具の分類が考えられる(鉛筆、シャーペン、ボールペン、フリクション(ボールペンなど)、筆ペン、ホワイトボードマーカー、修正液、蛍光ペン、グリッターペン、クレヨン、絵の具+筆、チョーク、など)。補助器具として、定規を使ったり、コンパスを使うのも考えられる。テープを貼り付けて解く方法もある(例えば漫画の「トーン」を貼ったり、透明のテープを貼って、光の反射で見る)。紙を切ったり折ったり、という方法もあるかもしれない。このあたりは間接書込のバリアントが無数に考えられる。目解き、というのはここの分類に入れられるかもしれない。
「変化の気持ちを変えるバリアント」は、まだ私の中であまり整理できていない。一つ一つの手を「手筋」と見るか「仮定」と見るか「試行錯誤」と見るか、もっと緩く見るか、という心構えは、ここで分類することになりそうだ。私は「仮定世界への入り込み」の度合いというのに興味を持っていて、天体ショー研究Wikiの方で少し(https://seesaawiki.jp/tentaisho-study/d/%cd%d1%b8%ec%bd%b8%a1%a7%b2%be%c4%ea%a4%c8%c0%e8%c6%c9%a4%df)考えていた。手の緩急という分類もありそうだ。緩急は、ペンパの一生の中でも若い時に意識されることが多いだろうが、解き手も意識することができる。緩急は、変化の微分に注目した、時間軸方向により大域的な分類とも取れる。新しい分類の視点が出てきそうで厄介なのでこの話は深堀りしないが、緩急の中でもデュナーミクやアゴーギグのようにいくつかの種類が考えられる気がしている。
「高次?なバリアント」には明確な定義がない。困ったらここに入れよう、というもので、あまり考えが纏まっていない。まず、次元性?を変えるバリアントがある(解くのにかける時間スケールを変える、盤面を拡大印刷する、複数の問題を同時に解く、など)。それから解き手を変えるバリアントがある(解かないで誰かに解かせる、協力して解く、妨害されながら解く、途中からバトンタッチする、利き手と逆の手で解く、など)。実際に解くことはせず、解き筋を構築していく(例えば、ソルバーを作る、ぱずぷれのようなツールを作る、ピタゴラスイッチ的なメカニズムを作る、余剰表出を消す、など)というのが考えられるが、このあたりはもはや書込なのかすら怪しい。ペンパのスタートとゴールを考えたときに、まっすぐ進むのではなくて、クネクネと回り込んでみたり、ランダムウォーク的な遊びを加えたり、むしろ逆流してみたり、と色々あるかもしれない。
最後に
この記事では、書込のバリアントのいくつかの例を挙げた。
アドベントカレンダーとなると、やはりテクニカルな話が多いので、今回は解き手寄りの視点で書いてみよう、という気持ちで書いた。今回は疲れてしまったので例を作らなかったが、例えば数字系のペンパの書込も、色々と考えられる。面白い書込があるよ!といった情報があれば、是非とも紹介いただきたい。ただ、誰か他人が作った問題(しかも、答えの情報も含む)を勝手に使うわけにもいかないので、こういった話題はシェアしにくい、という難点はある。書込バリアント情報シェア専用のペンパを作る試みがあってもいいかもしれない。
一般論も記事の中に邪魔にならない程度に書き込んでみたが、このあたりはまだまだ考察していきたいところだ。